オホーツク海に面する遺跡群
栄浦第二遺跡、常呂竪穴群の二遺跡に代表され、1974年3月12日に史跡常呂遺跡として指定された。
両遺跡はオホーツク海に沿う延長約5,4キロメートル、幅約200メートルの砂丘上にある。
カシワ・ナラ主体の樹林内には約2,500軒に及ぶ大小の竪穴住居跡が残っている。
史跡常呂遺跡の竪穴群(部分図)
しかもそれらの竪穴住居跡は完全に埋まりきらずに窪みのままであり、春の雪融け時には窪みに残雪が見られる。
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図3 史跡常呂遺跡の竪穴群(部分図) |
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史跡常呂遺跡竪穴住居群内の残雪
東京大学文学部の調査では方形竪穴128軒、六角形竪穴四七軒、円形竪穴
1,081軒、有舌竪穴45軒、不明38軒の合計2,499軒に及ぶ大規模集落遺跡であることが明らかになった。
栄浦第二遺跡
東京大学文学部は主にオホーツク文化期5軒、擦文期5軒、続縄文期1軒、縄文晩期1軒、縄文中期1軒の竪穴を調査した。
東京大学文学部の13軒の竪穴調査から注目されるのは、みかけの窪みの状態から竪穴の時期を推測できることが明らかとなったことである。北海道東部地域の同種の竪穴も同じ様相をもつものであり発掘しなくてもある程度の時期判断が可能となった意義は大きい。また、行政に先駆けて実施された一般分布調査と主要遺跡竪穴群の地形測量も個々としての遺跡・竪穴を面的・空間的に捉える方法論が後の研究に果たした役割は高く評価されている。
常呂町の調査では擦文期10軒、オホーツク文化期8軒、土壙墓11基、続縄文期6軒、土壙墓4基、縄文晩期10軒、土壙墓1基の他、時期不明の竪穴25軒、ピット110基が発見された。
特筆される遺物に擦文後期の45号竪穴から出土した炭化木製品のオサがある。織物具であるオサ三本と経巻具、布巻具など道具類がある。この内一本は長さ約63センチメートル、幅6センチメートル、厚さ1,8センチメートル。
擦文文化期のオサ
両端部にはアイヌ文様に類似する曲線文様、直線文様の彫刻が施され、アイヌ期のイトッパ(所有印)に類似する刻線もある。穴には糸ズレ痕がある。
アイヌ文化にあるウォサとどのように関連するのか、擦文晩期の釧路市北斗遺跡二一号竪穴例とともに織物具の変遷を解く貴重な資料である。
オホーツク文化期の土壙墓も注目される。11基を調査した。ソーメン状貼付文、擬縄貼付文、擬縄貼付文+刻文土器の三時期に分かれる。いずれも頭部に土器を被せるオホーツク文化独特の埋葬方法である被甕葬(屈葬)である。
頭部は歯骨の位置から西−北の方向にあることが確認できた。幼児の土壙墓83号(三歳前後)、88号(四〜六歳)は大型の石を上部に置く配石墓である。
オホーツク文化期の墓
これらの土壙墓には副葬品として鉄製刀子があるが、土壙墓二号、88
号からは靺鞨・女真文化のものに類似する銀製の耳飾りが出土。
常呂川河口周辺の遺跡群
この周辺の代表的な遺跡に常呂川河口遺跡、トコロチャシ跡遺跡、朝日トコロ貝塚などがある。中でも常呂川の右岸台地にあるトコロチャシ跡遺跡、トコロ貝塚などは最大である。
常呂川河口遺跡
この遺跡は常呂川護岸工事に伴い昭和六三年度から本年まで緊急発掘調査が行われた。遺跡は常呂川が大きく蛇行した標高4〜5メートル程の低地に位置する。これまで最下層の縄文前期(第十六層)、同中期(第十二層、八層)、同後期(第四層)、同晩期・続縄文・擦文・オホーツク・アイヌ文化期(二層)の各期にわたって層位的に調査されており、土器型式の編年を確立する上で貴重な情報を提供した。
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図8 常呂川河口遺跡押型文II群土器 |
常呂川河口遺跡発掘全景
トコロチャシ跡遺跡
1960年・1963年、1944年から2001年に東京大学文学部による学術調査が実施され、近世アイヌのチャシとオホーツク文化期の竪穴の内容が明らかになった。
アイヌ期のチャシは台地の北東隅にL字状に掘られている。
トロコチャシ跡遺跡の発掘
上部の幅は約8〜10メートル、深さ2〜3メートル。断面はV字状である。新旧二本の濠が確認され、柵列が等間隔に配置される。チャシの入口と考えられる「狭まり」(類ルイカ構造)も確認された。柵の内側にはオホーツク文化期の竪穴の窪みを利用した物送り場と思われる遺構、墓も発見され、チャシの構造・機能を解明する上で重要である。
オホーツク文化期の竪穴の調査成果は本展示に示される通りであるが、一九九九年から二〇〇一年に行われた地域連携推進研究に伴う確認調査ではオホーツク文化期の墓が発見された。集落と墓域が明確に分離されることが判明した点も、オホーツク人の社会構造を研究する上で貴重な成果である。
朝日トコロ貝塚
1958年から1961年に東京大学文学部が発掘調査。
長さ約200メートル、幅約90メートルのカキ貝を主体とした貝塚でありベンケイガイ、タマキガイ、ホタテガイの他に現在生息しないハマグリもある。哺乳類ではアシカ、トド、ヒグマ、クジラ。鳥類ではカラス、マガモ。魚類ではヒラメ、ボラ、サケ、スズキなどがある。縄文中期(北筒式)の貝塚で北海道でも最大規模を誇る。
また、石刃鏃に伴うトコロ十四類土器の発掘など特筆される調査である。